
子育てサプリ
こんな症状に:「子育てをもっと楽しくしたい」「こんな時なんて言おう?」
成分:コミュニケーションと心理学
効能:笑えてほっとして元気がでます
2006年10月〜2007年3月にポータルサイト「東海なび」(現在は閉鎖)に連載したコラムに加筆。
- 第1錠 子育ての目標ってナニ?
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犬と子ども、しつけは一緒?
テレビ番組で、犬の訓練士さんが飼い犬のしつけの技術を競っていました。優勝者は「スパルタ訓練士」。
犬がいうことを聞かなければ、恐ろしい形相でねじ伏せ押さえつけて叱り、いうことを聞いたら喜びいっぱいに猫かわいがりに(犬だけど)かわいがる、という方法でしつけをしたのです。その優勝コメントの中で、スパルタ式のしつけについて「子どものしつけと一緒です」※1とおっしゃったのが、「あれ?」と引っかかりました。
飼い犬のしつけと子どものしつけは、目的が全く違います。飼い犬のしつけの目的は、「人間に絶対に服従すること」。自分らしく噛んだり吠えたりしたら、迷惑で飼ってもらえません。
野犬と違っていつか群れのリーダーになる、なんてことも起こらないので、「人間に服従し、決められた基準に従って行動する」ことは飼い犬として幸せに生きるための、大切な目標です。そこに向かって、「スパルタ」なり「ほめほめ」なり、様々な方法でしつけが行われるのです。では、子育ての目標ってなんでしょう?
子どもが幸せに人生を歩んでいくために大切なことは?
子どもたちと犬との違いは、自分で自分の人生の主人になり、いつか親の私たちすら追い抜いていく存在だということです。
ここで、人間関係の成長のプロセスをご紹介しましょう。依存 :「あなた」に助けてもらう
赤ちゃんの時のように、人に力を貸してもらうことが大切な時期。大人でも、病気や、結婚、出産など、人生の節目で環境が大きく変わるときには、この時期があります。たっぷり依存させてもらうことで「わたしはここにいていい、喜ばれている存在なんだ」という確信が育ちます。自分で動き始める勇気を育てる時です。
自立:「私」は自分で自分の事ができる。
やりたいこと、やるべきことを自分でできるようになる時期です。成長するにつれ、できることがどんどん広がります。しかし、「自立」だけを成長の目標にしていると、「できない」人を責めたくなってきます。
「わたしはこんなにがんばっているのに、あの人は手伝ってもらってずるい」
さらに成長して、やることが増えてきて、自分一人でできなくなった時に「わたしはだめだ」と落ち込みやすくなります。
そして、次のステップを見つけます。共生・協働 :「私たち」はできることは自分でするし、できないことは助けてもらうことができる。得意なことで人を助けることもできる。みんなちがってみんないい。
自立した誰もが、完璧な人間ではありません。
自分の強みも弱みも受け入れて、お互いの凸凹を補い合い、より一層大きな力を出せる関係を作ることができるのが、この時期です。
良い仕事をしたり、次の世代を育てたり、地域をよくしていくという活動がしやすくなります。「子育てコミュニケーション心理学」のワークショップでは、人間関係が成長していくための栄養として、根っこに「わたしは大切な人だ(世界に一つだけの花だ)」という確信と、「あなたも大切な人だ」という信頼を育てていきたい。そして、「自分らしく、社会と調和する」ことを子育ての目標にしていきたい、と考えています。
実は、親になったあなた自身も、この人間関係の発達の最中にいます。
特に初めて親になる人は、これまで「自立」してきただけに、自分に完全に依存している赤ちゃんの世話と、自分も初めての「子育て」という環境に放り込まれて、誰かの力を借りなければとっても大変、という状況にとまどうことが多いでしょう。そんなときにも、コミュニケーションスキルは役に立ちます。
次は、「ひとの力を上手に借りるコツ」です。お楽しみに!※ 1 もちろん訓練士さんは、「間違っているときはきちんと伝え、うれしい時にはたっぷりほめる」という意味でおっしゃったのだと信じていますが、そこはTVの恐ろしさ。それまでのスパルタ映像にインパクトがありすぎて、見ていた人に与える影響が大きく感じられたので、あえてとりあげさせていただきました。
- 第2錠 子育てに、人の手を上手に借りるコツ「おかげさまスイッチ」
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おかげさまスイッチで、「すみません」から「ありがとう」へ
子育て中は、人の手を借りていいとき、むしろ、人の手をうまく借りるべきときです。「でも、簡単に『助けてください』なんて言えない」とおっしゃる自立心旺盛なあなた。
まずはちょっとしたことで人に助けてもらった時に、「おかげさまスイッチ」で「すみません」モードから「ありがとう」モードに切り替える練習をしましょう。ベビーカーを抱えて階段を上っていたら、手伝ってくれる人がいた。
電車で、席を譲ってもらった。そんなちょっとした親切を受けた時、私たちは「迷惑をかけちゃった!」と思うあまり、「すみませんモード」になりがちです。
「すみませんモード」とは、人に何かしてもらったときに、ただひたすら謝ること。人に迷惑をかけたら素直に謝ることは大切ですが、「すみません、すみません」ばかりでは「人に迷惑ばかりかけるだめな自分」というイメージが心を暗くして、疲れてしまいます。
そこで、「おかげさまスイッチ」を入れて、意識して「ありがとう」と相手の好意に感謝してみましょう。
「ありがとうモード」は、「助けてくれる人に恵まれた、ツイてる自分」というイメージで私たちの心を満たしてくれます。ハプニングをチャンスに変える
小学1年生のひろくんは、お友だちの家から帰る途中、迷子になってしまいました。
あちこち探して心配していたお母さんのところに、夕方遅く、家から少し離れた交番から電話がかかってきました。
「お宅のお子さんが道に迷って泣いていたところを、コンビニの店員さんが交番に届けてくれました」お母さんはほっとしつつも、「ひぇ〜、いろんな人にご迷惑をかけてしまった」と焦って交番にかけつけました。そして、しゃくりあげているひろくんとご対面。
「もー、心配したよっ!」
「オレだって、心配した〜(泣)」(ごもっとも)
そして、おまわりさんに頭を下げました。
「お手数をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。これからは気をつけます」心をこめて謝ったのですが、なにかもやもやとすっきりしないのです。
『そうだ、お礼をいっていない』と気づいたのはこの時です。すぐに「おかげさま」スイッチを切り替え、「ありがとうモード」になって、「ご連絡くださって、本当にありがとうございました。おかげさまで怪我もなく
無事に会えて、本当に良かったです」とにっこりしたら、おまわりさんもにこにこしながら「自分でコンビニに行って、道に迷っちゃったと言ったそうですよ。えらかったね」と、ひろくんをほめてくれました。その後、お世話になったコンビニに行き、店員さんに「お手数をおかけしましたが、交番に連れて行ってくださったおかげで、すぐに会うことができました。ありがとうございました」とお礼を言うと、店員さんから「お役に立てて良かったです。すごくしっかりしてましたよ、ねっ」と、またほめてもらいました。
ひろくんのお母さんは、こんな風に振り返ってくれました。
「すみませんモード」のまま帰ったら申し訳なさでいっぱいで、「まったく、なんであんたはちゃんと帰ってこれないの!」と子どもに延々と説教をたれていたと思います。
「ありがとうモード」のおかげで、助けてくれる人がいるありがたさを感じることができました。
相手の方から、ひろくんが意外にしっかりしていたことを教えていただいたのも発見でした。
なにより親子で、「助けてもらってうれしかったね。今度は、困っている人を見かけたら助けてあげようね」と話すことができたのがよかったです。リフレーミングとは
「おかげさまスイッチ」で「すみませんモード」と「ありがとうモード」を切り替える、というのは、心理学でいう「リフレーミング」の一つです。
リフレーミングとは、同じ物事を、視点を変えて見ることです。
水が半分入ったコップを見てみましょう。
「もう半分しかない」という視点で見た時と、「まだ半分もある」という視点で見た時とで、心の動きが違ってくるでしょう。
(一方の視点が良くて一方が悪い、ということはありません)普段は、私たちの視点はどちらか片方に固定されがちです。
それで対処できているときには、気にしなくていいのです。
しかし、自分が無意識に選んだ視点で、今、つらい思いをしているとしたら…。
私たちは視点を切り替える力を持っています。それを誰にでもイメージしやすいように、「おかげさまスイッチ」を作ってみました。
ちょっとした親切をもらったとき、気持ちよくお礼が言えて、お互いがよかった、と感じる体験をたくさんすると、人の手を借りるのが怖くなくなりますよ。
応用編 他人の言葉に振り回されないためにも効果な「おかげさまスイッチ」
たまの出張帰りに子どものお迎えに行って、夜の9時頃に駅を歩いていると、見知らぬご年配の方がすれちがいざま「あらあら、こんな時間に小さな子どもを連れて」と非難がましくつぶやかれることがよくありました。
発した側はすぐに忘れてしまうようなささいな言葉のつぶてでも、疲れていたり、自分も罪悪感を持っている時には、心に食い込んでくることがあります。
こんな時「すみません」モードになってしまうと、相手の言ったことに過剰に反応して、「わたしだって悪いと思うけど、たまにはしょうがないじゃない」とくよくよ考えたり、逆に、「大きなお世話よ、関係ないでしょッ!」と反抗的な気持ちになって、イライラした気分が長く続いてしまいます。
そのままいくと、「仕事さえしていなければ、子どもさえいなければ、こんなこと言われないのに」なんて考えかねません。
通りすがりの他人の言葉に、そんなに振り回される必要はないのです。
すぐに「おかげさま」スイッチを切り替えて、「ありがとう」モードになってみましょう。「うちの子のことをそんなに心配してくださって、どうもありがとう」と思うと、相手の伝え方の下手さを許してあげよう(笑)という気持ちになれます。
「すみません」モードと「ありがとう」モードを使って、人がかかわってくれるエネルギーを上手に自分の力にしましょう。
- 第3錠 子どもの存在そのものを抱きしめる、魔法の言葉
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子育てに効く魔法の言葉
子どもが自分を大好きになって、自分を大切にしながら持てる力を十分に発揮して生きていけるようになるためには、どんな言葉をかけたらいいでしょうか?
「もっと自分を大切にしなくちゃだめでしょう!」
…うーん、惜しい。
そう言いたいくらい、子どもを大切に思っているのですよね。
それを正直に伝えてみましょう。今回は、作曲家で元玉川大学教授の小宮地敏先生が教えてくださった、3つの魔法の言葉をご紹介します。
「あなたのことが、大好きだよ」
「あなたは、わたしの宝だよ」
「いつでもあなたの味方だよ」私たちは、自分の行動によって判断されることが多いものです。
だから、子どものしてくれることや、やらかすことに注目して、言葉を掛けがちです。「部屋を片付けてくれてうれしいよ」
「予定通りに勉強してえらいね」
「まだテレビを見ているなんて、困ったもんだ」
「ちゃんと挨拶しなくちゃ、だめでしょう」これらを「条件付きの肯定」、「条件つきの否定」のメッセージと呼びます。
さて、ここで、想像してみてください。子どもがしたりやらかしたりすること(doing)を全部とりはらって、その子の「存在(being)」そのものを。
それは、あなたにとってどんな存在ですか?自分にとってかけがえのない、大切な存在。
無かったことにはできない、いとおしい存在。そこに向かってあなたがかけるのは、どんな言葉ですか?
「 」最初にあげた3つの言葉と同じく、これがあなたの魔法の言葉です。
このように、ありのままの存在を、何の条件もつけずに抱きしめる言葉を「無条件の肯定」のメッセージと呼びます。
私の場合、「大事」という言葉が好きなので「○○(子どもの名前)のことが、とっても大事だよ」になりました。●毎日言うとしたら、いつ言いますか?
「子育てコミュニケーション心理学」の講座にいらした親御さんたちに「魔法の言葉をいつかけていますか?」と聞いたら、ほとんどの方が「気がついたとき」と「子どもが眠る前には必ず」と答えました。
小学生を筆頭に小さな子どもたち5人のお母さんは、きゅうりもみなどのリラクゼーションをしながら、「大好きだよ。うちの宝子ちゃん」
と自分なりの魔法の言葉をかけていたら、子どもたちの方から眠る時間になると「あれやって〜」とリクエストがくるようになったとか。中学生のお子さんを持つお母さんは「今さら照れくさくって」と言いながらも、寝顔を見ながら「大事だよ」とおっしゃったそうです。
すると、昼間にけんかをして憎たらしいと思っていた気持ちがすうっと流れて、「そうだよね」とつぶやく自分に気づいた、とおっしゃっていました。たとえ自分で自分をだめだと感じているときですら、そんな自分を大切に思ってくれている人がいる。その確信が、私たちを前に向かって進ませてくれます。
「母は強し」になれるのは、子どもたちがいつも、私たちにむけて魔法の3つの言葉を投げかけてくれているからかもしれません。
●秋の夜長にお薦めの本 「いいこってどんなこ?」ジーン モデシット 冨山房
「いいこってどんなこ?」
バニーぼうやの質問に、おかあさんはなんて答えるのでしょうか。
読むたびに、ああそうだったなぁ、と思い出させてくれる、親がほっとできる絵本です。
第4錠 愛情袋を満たそう
第5錠 子どものやる気が出る目のつけどころ
第6錠 よその子に注意するとき、何て言う?
第6錠 番外編 よその子に声をかけるって難しい?
第7錠 子どもの「困った行動」に対する3つの反応パターン
第7錠 番外編 怒りの5W1Hとは
第8錠 怒りの中にある自分の願いに気づく
第9錠 子どもが大切なことを学ぶチャンスを生かす方法
第10錠 子どもが困っているときの、親の得意技
第11錠 良い聴き手になる方法
第12錠 こどものケンカの仲裁、どうしてる?